陸上養殖を楽しむ(Part3)新たな視点から覗く可能性

陸上養殖

陸上養殖を楽しむとはどういうことか?

Part3においては、陸上養殖を”楽しむ”ことの核心について考えていきます。

ただ、そもそも”楽しむ”とはどういうことでしょうか?”楽しむ”などというものは、個人の域を出ず、なんとも掴みどころのないテーマであるとも言えます。

そうです。Part1より、重ねて申し上げさせて頂きますが、この議論は、Mauer個人の価値基準から語る主観性の強い議論でしかありません。

ですが、陸上養殖経験者としての視点でもって”楽しむ”方法を考えることは、自身の思考整理だけでなく、陸上養殖の建設的な発展を願う上でも、一定の価値があるのではないかと考えたのです。

などと信じつつ、”楽しむ”などということを論点の中心に据えているわけですが、と言うのも、Mauer自身が一度、陸上養殖に対する”価値”を見失い掛けたことに関係しているのです。

Mauerにとって”楽しむ”とは、その対象に自分なりの”価値”を見い出すことだったのです。

その”価値”とは、これまた抽象的なものとなってしまいますが、その社会的意義やビジョン、美意識のようなものです。

Mauerが陸上養殖を選んだ動機は、”食糧問題への対策”と”自然環境保護”という社会的な課題解決に貢献出来ると考えたからでした。生態系のピラミッドからはみ出しているであろう人類を養うためには、その食料もまた自然から隔離し、生産する必要があるのではないかと考え、”循環式陸上養殖”にその可能性を見いだしていたのです。

しかしながら、当事者として現実に向き合う中で、中心に据えていた”価値”に揺さぶりを掛けていくような問いを抱くようになりました。そして、その問いに答えを見い出せないまま、”楽しむ””という心を見失っていました。

主な問いとは次の様な内容です。

主な問いとは次の通りです。
①餌料原料を天然資源や持続性の怪しい現代農法に依存していて本当に食糧問題の解決になるのか?
②自然環境の保護という側面から見ても餌料を巡る①の問いから貢献度を低下させていないか?
③工場化、機械化等による合理化によるシステムの複雑化及びメーカー依存(外部依存)は、無知・無責任化、更に人間性の担保や、生命への尊厳低下など弊害があるのではないか?

①、②は、餌料を巡る問題となりますが、特に肉食動物生産が中心の養殖ビジネスが抱える本質的問題だと考えています。③については、養殖に限らず現代のフードビジネスに潜む問題ではないかと考えています。(これら問いについては、ここでは深く掘り下げないようにします)

なおこの3つの問いに共通しているのは、現代社会の構造的な問題でもあり、”利潤の最大化”が絶対命題である一企業にとっては、優先度は低く、収益上問題が無ければ、基本的に無視可能な項目ではないかと思われます。

勿論、価値などは人それぞれで良いと考えています。自分自身の価値を「あるべき」論で押しつけたいとは思いません。

ただ、楽しむための価値を創造し、保持し続けるために必要な、共通項のようなものはないかと考えるようになりました。

その核心を問う時、その共通項とは”マクロな目”、いわゆる”鳥の目”の様な視点が必要で、対象とするシステムの内外を含め、これを取り巻く全体図を如何に俯瞰的に見ることができるかではないかと考えました。

そこで、陸上養殖を”楽しむ”うえで必要だと考える新たな視点を3つに絞ってまとめることにしました。

陸上養殖を楽しむための3つの視点
①水以外の循環を捉える(システムの内と外の関係)
②利潤追求から離れた視点も持つ
③食料生産方式の立ち位置を計る

この3つの視点に共通させているのは、”鳥の目”を培うための俯瞰的な視点だと考えています。

陸上養殖への新たな視点

水以外の循環を捉える(システムの内と外の関係)

Part2における一般的な分類とそのメリット及びデメリットを見ることで、陸上養殖の分類や発展が一貫して水を中心に語られていることを見てきました。

システムとしての完成度を評価する上で、水の循環率に注目することは、間違いなく何よりも大事です。飼育水の状態は、生物の生存に最も影響を与えるからです。

また、汚れたからと言ってガンガン給排水を繰り返せば、地域環境の汚染に繋がり、環境問題を問われることになります。

その意味では、水の循環率でもって陸上養殖の方式を分類することは当然のことと言えるでしょう。

しかしながら、”循環=水”という視点だけで陸上養殖を語ることには、陸上養殖そのものの可能性を狭くしているような印象を覚えます。Part1の議論で指摘した”餌の問題”しかり、陸上養殖は外側にも積極的に目を向けなければいけない問題が多分にあると考えるからです。

陸上養殖の魅力は、”水の世界を陸に揚げる”ことにあると考えています。

陸に揚げることで、水の世界は隔離されます。であるが故に、その隔離されたシステムの内と外を出入りするあらゆる”モノ”の効果を捉え、浮き彫りにすることが可能になります。

システムの内と外を出入りする”水”以外の”モノ”を数例挙げてみましょう。

”生体を育てるための”、”生体から放出される排泄物”、”稚魚放流から収穫までの生体そのもの”、”添加が必要なミネラル”、”加温や冷却のための熱エネルギー”、”機械を動かす電気エネルギー”、さらには、”システムを構成する材料機械とそのパーツ類”に、”管理する的資源”。これらは、生き物を育てるためのシステムの内側を通過していく”モノ”といえます。

これらの”モノ”をどの様に分類すればベストなのかについては、ハッキリさせられていないのですが、、、例えば、水、餌、生体、エネルギー、資材、人の6項目に分けて評価するなど出来るのではないかと思われます。

陸上養殖における一般的な”循環式”の論点からズレた話をしをしていることは承知しています。しかし、水にしても循環していると言えるのは液体の水のみです。蒸発して失われる分は回収できず、外からの給水を必要とします。長期的かつマクロな視点で眺めれば、”水”もまた、システムの内側だけで完結させることはできず、内から外へと通過する”モノ”の一つに過ぎないことになるのです。

例え循環式と呼ばれる陸上養殖でも、その外側からもたらされるあらゆる”モノ”を消費することで成り立っていることが分かります。

だからこそ、Mauerとしては陸上養殖におておいて安易に循環を語りたくないという思いがあります。

重ねて言いますが、循環式陸上養殖を否定したいのではありません。ただ、”循環”を語るのであれば、水以外の循環にも目を向けた話がしたいのです。これが可能になれば、生産方式の技術的課題は、システムの内側だけでなく、外側の世界にも意識を向けた議論になることが予想されます。

これら課題に取り組むアプローチの方法は各種各様でしょう。そこから立ち現れるシステムは、関わる者、企業の個性や美意識が強く反映されることになるのではないかと考えています。

システムの内外の関係が深まる分、または、一つのシステムとして集約される分、一つの生産物を作り上げるために必要なあらゆる”モノ”に対しての良い意味での”責任”を持てるのではないかとも考え、持続可能な社会の実現を掲げる昨今の世相からみても社会的な意義が産まれるのではないかと考えています。

利潤追求から離れた視点も持つ

などと考える訳ですが、事業として考えた場合、あらゆる”モノ”の循環に目を向けるなどということは、やはり「言うは易し、行うは難し」でしょう。

陸上養殖はビジネスです。「水以外の循環も問題にしたい」などという話は、”利潤の最大化”という企業の本質と対立する恐れが高いからです。

現代社会は、貨幣経済の上に、合理化を追い求め、分業・専業化が図られ、専門家が誕生し、社会及び経済を強くしました。ということは、ここまで議論してきたシステムの外側にまで手を広げたいなどという話は、まったく逆の話をしているようにも見えるからです。

しかしながら、分業・専業化が社会や経済を強くした一方、人々の物事に対する無知、依存、無力感を高め、更には専門外の物事に対する責任の消失、放棄を助長したのではないかとも考えられます。

”利潤追求”という企業の本質は、揺るがないとは思います。しかしながら、そのアプローチとしての分業・専業化による合理化の追求だけでは解決できない問題が浮き彫りになっていることも、また確かではないでしょうか?

極端に傾かないような中道的な関係性を新たに構築する必要があるのではないかと感じています。

そんな中で、陸上養殖には、どのようなアプローチが求められるでしょうか?

食料生産方式の立ち位置を計る

陸上養殖を水産の中だけの話で考えるのではなく、あらゆる食料生産方式の内の一つとして捉えるところから考える必要があると感じています。

それは、農業や畜産などの陸の生産も含めつつ、狩猟・採取から農耕、畜養、養殖、ひいては細胞培養に至る先端的生産方式も含めた中で、どこに位置しているのかを計る視点です。

陸上養殖というシステムそのものが、何に支えられ、何を生産し、何を提供出来るのか?そのINからOUTまでの流れをぼかさずに、明瞭化できればできるほど、そこから創り上げる価値=物語は、時代に即した揺るぎないものになるのではないかと考えています。

では、これらをどの様に評価し、位置付けるのか?が問題で、まだ明瞭な解を持っている訳ではなく、この人工生物圏研究所というささやかな活動を通して模索している状況です。。。

ただイメージとしては、、、産廃処理における「中間処理」や「最終処分」の考え方に近いのかもしれません。

産廃処理における中間処理と最終処分の関係
排出業者:生産者であり再資源利用者
↓
中間業者:減容、安定化、無害化、資源化されて再利用へ
↓
最終処分:再利用できないモノを埋め立て処分、隔離保管

例えば、システム内における資源の再利用率(中間処理の能力が問われる)や最終処分率を定量化したり、原料から生産物を育て、排出された資源が再利用又は、最終処分されるまでの一連の把握率を評価することで、その食料生産方式の立ち位置を計るような仕組みです。

現在主流となっている養殖を含めた食糧生産システムにおける資源利用の流れをイメージすると、次の様な感じです。

養殖などの生産システムにおける資源利用の流れ

これに対して、原始的な狩猟・採集による食料確保における資源利用のイメージは、このようなシンプルなものになるのではないかと考えています。

原始的な狩猟・採集による資源利用の流れ

システムの境界を必要としない自然の生産力に依存した狩猟・採集を極とした上で、その対極に位置するのは、完全閉鎖型循環式の生産方式と言えるでしょう。太陽エネルギー等の自然エネルギー以外、をそのシステム内で完全循環できるイメージです。

太陽などのエネルギー以外の資源を完全循環させたイメージ

このようなイメージの中で、評価対象とする陸上養殖システムの内外における関係性を把握し、同様の評価方法で定義した他の生産方式と比較することで、自身が関わる生産方式の価値を見いだしていくことが出来るのではないかと考えています。

資源循環型陸上養殖という視点が作れるかもしれません。

あらゆる資源の循環というマクロな視点で俯瞰出来れば、過去の原始的な生産方式についても再評価し、新たな生産方式創出のためのアイデアを得る切っ掛け作りも出来るかもしれません。

例えば、Mauerが以前ラオス国で見たティラピアの養殖池では、池の上に建てた小屋で養鶏を行い、ニワトリの糞が階下の養殖池へと落ちることでテラピアの餌とする、資源を無駄にしない複合的な生産を行っていました。これなどは、資源の循環という視点で見ると、一つの完成された養殖システムだと感じました。

陸上養殖から見る食と命への責任

私たちが、生を営む上で、食事と排泄は、切り離すことができない不可欠な機能です。

人類の食は、狩猟・採取の時代から農耕へと変わり、その農耕はハイテク化へと突き進んでいます。

この流れの良否は分かりません。

しかしながら、個人的には、物質的に豊かになっていく反面、命への軽視、文化的な均質化が進んでいるようにも思われ、人間の情緒的な豊かさは貧しくなっているのではないかと感じることもあります。

Mauerとしては、ただ発展を追い求めていくだけではなく、文化的な側面にも目を向けるような、もう一段階更に俯瞰した視点でもって養殖システムをデザインしてくことの方が、価値を感じられ、”楽しむ”ことができると考えているところです。

Part1でも触れましたが、食産業は命の生と死を扱う産業です。食への向き合い方は、命への感性を養う場でもあると考えています。

Mauerがモンゴル国で”おもてなし”を受けた時、羊の買い付けから解体(屠殺)、調理から食べるまでの一連の流れの中に身を置かせて頂いたことがありました。モンゴルでは、肉を食べる時、軟骨や骨の皮(骨膜)、髄まで食べなければ怒られます。

これ以上に美しく責任のある食との向き合い方はないと、この時強く感じ、食との向き合い方が、その国の文化にも大きく影響を与えているのではないかと考えるようになりました。

先進国である日本において、食文化は、家庭からではなく、食産業の側に主導権が握られているのではないかと感じることがあります。

陸上養殖という文化がどのような命との対峙を生み出していくのかは、その開発者の手の中に握られていると云えるのではないか?

これを責任とし、Mauerとしては、命を軽視しない食文化が築けるような陸上養殖のスタイルを見つけたいと願っており、今いる場所から、人工生物圏研究所という活動を通して、模索していきたいと考えています。

おわりに

Part3まで記事にして思うことは、、、Mauerの主観かつ、リアルタイムで手探りしているテーマなだけに、後半にいけば行くほど、散らかってしまっている感じがしました。。。(笑)

ここまで、目を通して頂いた方には、感謝の言葉しかありません。

今後は、ここまでの”楽しむ”を踏まえ、陸上養殖の具体的なテーマについて議論していければと考えています。

前記事のPart1とPart2はこちらです。
陸上養殖を楽しむ(Part1)陸上養殖とは何か?
陸上養殖とは、すなわち水棲生物を陸上で育てることを示すのですが、水に棲む生物を陸上で育てようという試みは、言葉通りに単純なものではなく、農業や畜産にはない難しさがあり、陸上という水棲生物が本来育たない環境において、強引に育成を行うための環境を用意するところから始まります。
陸上養殖を楽しむ(Part2)基本的な分類から見るメリットとデメリット
陸上養殖の基本的な分類を考える陸上養殖の基本的な分類については、前記事のPart1にて「掛け流し式」、「半閉鎖循環式」、「完全閉鎖循環式」の3種類に分け、概要について少し触れました。なお、3つの分類ですが、もっとシンプルに分けるのであれば、...

コメント

タイトルとURLをコピーしました