夏を耐える屋外ベランダの海水ビオトープ育成状況

MBS

ベランダに海水水圏を設置して2ヵ月が経過しました。

只今、夏の真っただ中で、水温上昇を耐え抜いている状況です。水質の状況や生き物たちの変化が見られるようになりました。

そんな育成状況の実際についてご紹介いたします。

機械なしの海水ビオトープ

MBS(Minimamu Artificial Biospher)と題して、屋外のベランダで小さな地球づくりを目指しています。

人工生物圏として、主要な生物圏の一つが海水圏です。

用意した海水水槽は市販品の60㎝水槽です。

屋外で小さな水槽を使った海水飼育の実例は少ないのではないかと思われます。

そんな中で、挑戦的な試みとして、機械類を一切入れず、淡水ビオトープの様な環境下で、どれだけの生体を育成できるのか実験していくことにしました。

濾過槽や調温装置はおろか、エアレーションや水流ポンプも設置していません。まさに自然のタイドプールのような状況での育成となっています。

最低限の材料でどこまで育成可能なのかを検証するところから始めています。

ただ、始めることで分かったことですが、機械による対流はないですが、エビや魚の動きで意外と水が攪拌されている様子です。このおかげで2ヵ月経った今もなんとか育成出来ているのかもしれません。

浄化能力の変化(水質)

検査試薬

育成上重要な水質検査については次の試薬を使用しまいた。

  • アンモニア:(株)セラジャパン NH4/NH3-Test(検出下限値:0.5mg/L)
  • 亜硝酸:テトラジャパン(株) テスト試験紙NO2 (検出下限値:0.5mg/L)
  • 硝酸:テトラジャパン(株) テスト試験紙NO3 (検出下限値:10mg/L)
  • pH:テトラジャパン(株) テスト試験紙 pH
  • リン酸:(株)セラジャパン PO4-Test(検出下限値:0.1mg/L)
  • KH:テトラジャパン(株) テトラ5in1マリン(検出限界値:3d)
  • Ca:テトラジャパン(株) テトラ5in1マリン(検出限界値:100㎎/L)

※6月19日の測定3回目からは、亜硝酸、硝酸、pHは”テトラ5in1マリン”にて計測しています。え

窒素の状況

生体を放流したのは5月28日です。育成日数に対する窒素の3要素であるアンモニア(NH4)と亜硝酸(NO2)、硝酸(NO3)の変動状況をグラフにしました。

検出された数値としては、どれも育成上問題ないレベルだと考えています。

また、検出から未検出になるまでの動きがアンモニアから始まり硝酸で終わっており、窒素3要素の変動の仕方としては、硝化細菌や脱窒細菌は、セオリー通りの動きをしていると考えている所です。

リンの状況

次にリン酸です。

現状としては、まだ上昇を続けているように見え、低下はしていません。

室内の海水無換水水槽では、0.25当たりの低い状況を保っています。どのレベルで安定するのかが評価の分かれ目となりそうです。

水の色

モナコ式による無換水水槽において、Mauer的に気に掛けているのが水の色です。

アクアリウムはもとより、特に陸上養殖において、同じ水を使い回す水槽飼育では、水の色が黄色から黄褐色へと色味が付いてきます。原因となる要因にはいくつかあるのですが、餌由来の難分解性高分子であるフミン質(バクテリアによって分解された最終生成物で主にセルロース)が主な原因の様です。無換水水槽における課題の一つです。

当然、この屋外海水ビオトープにおいても課題だったのですが、どうやら色が付いている様子です。

フミン質は、特に貝類などの無脊椎動物の生存や濾過槽の硝化活性の低下などが指摘されているため、これが処理できないとなると無換水としては敗北だと考えています。

参考資料
辻洋一・小泉嘉一(2011)「無換水陸上養殖を実現するための難分解性有機物処理とコスト評価」2011.5養殖(P54‐59).

なお、室内で2年目を迎える無換水水槽では水への色素沈着が発生していません。

これは、モナコ式の核となっている底砂2層目の材料の違いによる可能性があるのかもしれません。

Mauerが実施しているモナコ式の底砂は、表層部の1層目をサンゴ砂と石灰石砂のブレンドしたものを使用しています。一方、2層目については、室内では黒土を使用し、屋外は、富士砂(溶岩石)を使用することにしました。

黒土では、土壌の吸着効果が発揮されている可能性があり、長期的に観察していきたいと考えています。

その他(pH、KH、Ca)

pHや炭酸塩高度(KH)、カルシウム(Ca)については次の通りです。

pHが7.8と8を超えていない一方、KHとCaは、上昇を示しつつ高めの値で推移しています。

通常の海水では、Caが400~450㎎/L、KHが8~10ⅾであることを考えると高めです。

動力がなく、サンゴ砂や石灰石から溶出するCaにより、水中のKHやCaを高くなっていると感がていますが、今後の傾向をみて水槽内の環境を考察していきたい所です。

水槽内にエアレーションや水流ポンプなどによる水の対流もほとんどないため、生物の呼吸によって二酸化炭素濃度は高くなりやすい環境だと考えています。このままpHが変わらずKHやCaが高くなっていくようでしたら、水中の二酸化炭素濃度が高くなっている可能性は考えられそうです。

生体の状況

猛暑を堪える

7月を迎えて、外気温で35℃近くまで上昇する時があります。

水温の変動を観察していると、日中の最も熱くなる時間帯での水温は、外気温から-3度といったところです。直射日光が少なく、日陰になる棚の一段目であるため、水温上昇が抑えられているようです。

それでも、高い時では32度まで上昇しました。生体への影響が心配されましたが、海藻の枯れもなく、なんとか元気に生存出来ている状況です。

ホンソメワケベラの放流

6月末に室内無換水水槽よりホンソメワケベラを移しました。

ホンソメワケベラによる他の魚へのちょっかいが目に余ったからです。。。

実験的要素が強い屋外水槽への移動はためらわれましたが、他に水槽がないため避難させることにしました。

現状としては、室内水槽と変わらず元気に活動しており、一先ずは問題がない状況です。

ただ、秋を迎えれば水温がどんどん低下するため、何かしらの代替え案は用意してなければと悩んでいる所です。このまま冬へと突入すれば、死滅回遊魚となってしまいそうです。。。

イソスジエビの抱卵

イソスジエビも水槽内の環境に落ち着いたのか分かりませんが、抱卵するようになりました。

稚エビを見ることはありませんが、ホンソメワケベラがいる以上、ふ化と共に食べられてしまいそうですね。。。

海藻の成長具合

海藻については、日照不足による枯れは見られない状況です。

当然種類にもよるかと思いますが、陸上植物とくらべれば、日照不足に強いようです。

現状としては、室内の海水水槽から移した、ホソジュズモ、ヘライワズタ、センナリズタ系、イトゲノマユハキ系の4種類を入れております。

センナリズタ系の海藻が室内とは異なる成長の仕方をしており、葉が少なく、茎を細く長く伸ばしています。これは日照量に関係ありそうですね。

また、ヘライワズタについては、一度遊走子を放出して枯れたことがありましたが、再び新しい葉を伸ばしています。

植物プランクトンの増減

水面の植物プランクトンは、生体放流後1週間後には、水面に多く発生していました。

その後、1ヶ月半経過後に突然消えたかのように数を減らしました。

窒素3要素が未検出になってから1週間後のことでしたので、窒素分が無くなって増殖できなくなった可能性があります。

その他(カズナギ、ヤドカリ、ヨシハモガニ)

水槽内で育成中の他の生体として、魚類ではカズナギ、甲殻類ではヤドカリやヨシハモガニがいます。

ヤドカリは配合餌料を食べますし、ヨシハモガニは海藻に付いている有機物をついばんでいる様子を良く目撃します。

カズナギについては、配合飼料を食べてくれない様子です。海藻に絡まりながらたまに泳いでいるのですが、何を食べているのか不明です。プランクトン等を食べている可能性がありますが、ホンソメワケベラを入れたことでカズナギの餌が奪われていないか、心配しているところです。

左からイソスジエビ、ヨシハモガニ類、カズナギ

おわりに

機械なしのただの溜め水状態で、酸欠や水の腐敗などの致命的な問題も起きず、2ヵ月間、しかも猛暑の中をなんだかんだで育成出来ていることには、正直驚いている所です。。。

8月に入り、まだまだ暑い日が続きそうです。

水質としてはリン酸と水の黄ばみに注目しつつ生体の生存状況を見守っていきたいと考えています。

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