極寒の地から
10数年前、私たちは冬にはマイナス30度にもなる内陸国で、陸上養殖のプロジェクトを始めました。
「暖かい水環境を必要とする生物を、海のない極寒の地で育てる」――常識では考えられない挑戦でした。

「なぜそんな場所で?」
今でもよく聞かれるこの問いに、明確な市場性や合理性はありませんでした。
ただ一つ、「この環境でできれば、世界中どこでも通用するはず」という発想が、私たちを突き動かしていたのです。
ずっと改善中
現地では、まず工場の建設からスタートしました。
しかし実際には、その後の“やり直し”の方が長く、設計の見直しや設備の再調整、気候や資材事情に合わせた修正など、試行錯誤の連続でした。

完成というより、「ずっと改善中」という感覚に近かったかもしれません。
水は井戸を掘って確保し、塩分やミネラルを調整して人工的に“海水”を再現。
外気温との差を埋める水温管理も大きな課題で、日々の運用の中で工夫を重ねました。
言葉も文化も異なる現地のスタッフたちと、共に汗を流しながら取り組んだ日々。
技術的な知識がない中でも、真剣に向き合ってくれた彼らの存在は、今でも私たちにとってかけがえのない財産です。
かけがえのない財産

うまくいかないことも多く、経済的にも決して効率的とは言えませんでした。
それでも、何もない場所に環境をつくり、少しずつ形にしていく過程には、驚きや発見、そして「こんなことがあるのか!」という面白さが詰まっていました。
この経験を通じて、私たちは「環境の制約」「技術の限界」「人との関わり方」について深く考えるようになりました。
そして今、「どこで、どうやって、何を育てるか」という問いに対して、より柔軟で持続可能な陸上養殖のかたちを模索しています。
あの挑戦は、私たちの原点であり、次のステップへの確かなヒントとなっています。
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