改良型モナコ式水槽~火山生成物と土壌の可能性~

無換水の改良型モナコ式水槽育成状況 海水水圏

本記事より紹介していく無換水水槽は、前記事までに紹介してきた基本的にベーシックなモナコ式水槽に、独自の変更を加えた改良型のモナコ式水槽となります。

改良は、2020年8月4日に行い、改良型として育成を再スタートさせ、今日現在も継続して育成を続けている無換水水槽となります。ここでは、改良型モナコ水槽の狙いについてご紹介いたします。

改良型モナコ水槽の狙い

前回までの記事で紹介した通り、実際に育成を行ってきたベーシックなモナコ式水槽でも、満足出来る育成結果ではありました。

モナコ式水槽そのものの紹介はこちらを参照ください
『モナコ式』から挑戦した海水の無換水水槽作り
海水飼育において、水を取り替えずに長期育成を実現したと云われる『モナコ式』水槽の能力を知るために、2019年9月28日より、2020年8月3日まで約10ヶ月間を無換水にて育成しました。ここでは、モナコ式の概要と、Mauerが実際に行ったモナ...

しかしながら、長期無換水育成に伴う懸念として、有機物蓄積に伴う硫化水素(H2S)発生による突然死や、水中の溶存ミネラル(特に微量な金属元素)の欠乏等が考えられていました。

改良型モナコ式に期待している狙いは、地質学的要素からのミネラル供給や化学的な作用です。

「森は海の恋人」的水槽を目指す

ヒントを得たのは、森の恵みが牡蠣を育てるという畠山重篤氏の「森は海の恋人」の理論です。

『森は海の恋人』紹介記事
『鉄は魔法つかい: 命と地球をはぐくむ「鉄」物語』森と海の繋がりを教えてくれた情熱的で心打つ一冊
畠山重篤命と地球をはぐくむ「鉄」物語鉄は魔法使い小学館(2011) 概要「森は海の恋人」をスローガンにした山への植林活動は、気仙沼の漁師さん達の手によって1989年から始まり、今や全国的な活動へと展開しています。また、「森の栄養が海を育む」...

その核心には、森の土壌からもたらされる腐葉物質(特にフルボ酸)と鉄(Fe)の働きがあります。

地中の鉄元素に腐葉物質が結合することで、錯体と呼ばれる化学構造にて形成されるフルボ酸鉄錯体となります。これが、河川を安定した状態で流れ、沿岸海域の植物プランクトンや海藻類の光合成に必要な鉄を植物が吸収しやすい状態で運んでくれるというものです。

鉄を吸収した植物プランクトンや海藻は、光合成に必要な葉緑素(クロロフィル)を鉄から合成し、水中の窒素(N)やリン(P)等の栄養塩を消費しながら増殖します。植物プランクトンが豊かになり、これを捕食する動物プランクトン、そして牡蠣が美味しく太るという流れです。

また、鉄は酸化されやすく、毒性の高い硫化水素と結合することで、無害な硫化鉄として沈殿させることも出来ます。

無換水水槽の安定化のためにもこの仕組みを取り入れたいと考えました。

黒土はどうか

腐葉物質とは主に植物の遺体由来の難分解性物質であり土壌に含まれます。鉄も、地殻の主要な構成要素であり、噴火などにより地表にもたらされたものが土壌に残されています。

そもそも海のミネラルも鉱物由来です。

雨により火山成生物由来のミネラルが海にへと流れ、海を塩辛くしてくれます。そして、当然ですが海は誕生してから今日まで水換えせずにその成分を維持し続けているのです。

海のミネラル生成についてはこちらの論文に詳しいです
参考資料:若月利之(1985)『土と海と人と―― 一つの土壌生成論の試み』化学と生物.Vol.23,No.6.

であるならば、無換水水槽で懸念される問題も、鉱物や土壌等を利用することで解決できるのかもしれない。そんな単純な発想からのスタートでした。

良い材料はないかと考えていた時に知ったのが、黒土でした。

職場の兼業農家さんのM氏との会話から知った黒ベト(黒土)の存在です。

黒土が火山灰由来であり、腐葉物質を多く含むということを知りました。また、リン(P)を吸着する能力も持ち合わせているようです。一挙両得、いや三得なのではないかと選んだ材料でした。

しかも、ホームセンターで安価に手に入れることが出来ます。

しかしながら、雨水で風化しているためカルシウム(Ca)などのミネラル成分は貧弱です。

そこで、頂いた石灰石の砂利の利用も試みました。石灰石はサンゴ砂と異なり、サンゴの骨だけではなく植物プランクトンの化石も含むためカルシウム以外の鉱物も含まれています。サンゴ砂を表層、石灰石を下層にして地層状にブレンド利用してみることにしました。

以上より、黒土の効果として、腐葉物質と鉄の供給による光合成の促進と硫化水素の抑制、更にリン(P)吸着という特徴により栄養塩の増加抑制を期待しました。

石灰石からは、Caを中心としたミネラルの供給やpH低下の緩衝効果を狙いましたが、これは、既にサンゴ砂でも期待される効果であるため補助的なものです。

化学的な根拠や対象区など用意できればベストでしょうが、一人であれこれと打算的に準備していても時間ばかりを浪費してしまうので、とりあえずやってみようと、こんなところまでの安直なアイデアからスタートさせることにしました。

次の記事では、改良型モナコ式水槽の自作手順についてご紹介していきます。

半実行中のアイデア

お気づきの方もいられるかと思われますが、上記までの話の中で抜けている点はミネラルの供給です。

正直、火山灰由来ということである程度ミネラルはあるんじゃないかと期待した黒土でしたが、後に調べると案の定多くのミネラルは風化により失われていることが分かりました。

しかしながら、活火山が近くにないと溶岩石なんてどこで簡単に手に入るのだろうと考えていましたが、ホームセンターの黒土の傍に、富士砂なる溶岩石が存在していることを知りました。。。

また、「森は海の恋人」で重要視している腐葉物質のフルボ酸ですが、腐葉物質を多く含む黒土に、フルボ酸は少ないことも後に知ることになります(笑)

いっそのこと市販の腐葉土を使うのも良いかと考えているとこですが、フルボ酸などの腐葉物質は、難分解性の特徴を持っており、すなわち微生物等が消費しつくした有機物のカス的(最終老廃物)的なものということでもあり、直接使っても効果は低いのではないかと考えてもいるところです。

現在、別に行っているベランダ菜園では、家庭で出来る小さな地球作りとして”Minimum Biosphere System(最小の生物圏システム:MBS)の構築を目指していますが、ここでは、ミミズコンポストによって生ごみを堆肥化して植物を育てています。

ここで産出されることになるであろう植物や微生物たちに利用しつくされた土を、無換水水槽に利用する土壌として、富士砂などの溶岩石と共に利用するのも面白いかもしれないと考えているところです。

海水水槽では、現状一つしか用意できないため、ベランダ菜園での淡水水槽などで構築しようとしていることころです。

これについては、後に紹介して生きたいと考えています。

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