Mauerが行う海水魚の無換水水槽では、プロテインスキマーを使用していません。
海水飼育では、半必須になっているプロテインスキマーですが、使用しないことによる水槽の実情からプロテインスキマーの必要性について検討してみます。
プロテインスキマーとはなにか?
基本原理
プロテインスキマーは、アクアリウムの世界でも広くお馴染みになっている設備だと思われます。
海水飼育では、定番的装置で、特に、水質にセンシティブな管理が要求されると云われるサンゴやイソギンチャクを飼育する水槽では必須的装置として紹介されています。
プロテインスキマーは、名前のまま訳せば「タンパク質除去装置」となるのですが、日本では装置の特徴から「泡沫分離装置」とも呼ばれています。
基本的には、微小な泡を発生させ、気泡の気液界面に水中の有機物を吸着、濃縮する性質を利用して、分離除できる仕組みになっています。
水中の有機物とは、残餌、排泄物、生体の体表粘液など由来のタンパク質、脂質など様々です。これら有機物は、水中に留まり続けた場合、通常はプランクトンや細菌類などの微小な生物の利用によって分解され、魚類などにとって有毒なアンモニアに変換されます。
つまり、プロテインスキマーとは、水槽内の不要な有機物が有毒な状態にまで分解される前に取り除いてしまおうという物理的な浄化装置なのです。
構造的な特徴としては、泡による吸着を最大限に生かすため、水中での泡の対流時間を延ばすため、タワー状の構造をしています。
プロテインスキマーには、装置に種類がありますが、泡の発生方式によって分けられ、エアストーンを使用したエアリフト方式、流体と圧力差の原理を利用して、液体に気泡を混ぜるベンチェリー方式などがあります。
メリットとデメリット
プロテインスキマーを使用することのメリットとデメリットについて考えていきます。
まずはメリットからです。主に次の6点が得られます。
メリット
1.不要な有機物回収
2.濾過設備の負荷低減
3.細菌の増殖抑制
4.水換の省力化
5.酸素供給
6.二酸化炭素の脱気
①の不要な有機物の回収こそ最大の目的であり、期待する効果です。砂やフィルターなどの固定床的な物理濾過とは異なり、泡を発生させるだけで、残餌や排泄物、生体由来の分泌物等を継続的に回収できることは大きな魅力です。
有機物を回収するからこそ、必然的に、②においてプロテインスキマー以外の物理濾過や生物濾過設備への負荷を低減でき、有機物が減ることや細菌そのものの濃縮によって、水槽内では③細菌の増殖を抑制させることが出来ます。また、これら負荷の軽減により、④水換えの回数を減らすことができ、作業手間やコスト含め省力化を図れます。
更に、プロテインスキマーが泡を発生させる装置であるだけに、不随的に⑤酸素供給や⑥二酸化炭素の脱気効果も発揮してくれます。
次にデメリットです。大きくは次の3点です。
デメリット
1.ミネラル成分の排出
2.装置の維持・管理コスト
3.淡水では効果が出ない
最大のデメリットが、①ミネラル成分の回収により、水中の微量元素を減らしてしまう恐れがあることです。
プロテインスキマーは構造上、発生させた微小な泡に汚れを吸着、濃縮させて回収しますが、気泡による気相と液相の接触よって、水分の気化が促され、汚れだけでなく多少なりともミネラルの濃縮が起こります。
サンゴに必要な水中の微量元素、長期的な無換水を目指す場合のトータル的なミネラルの減少など、長期的には、水中のミネラル分が不足する可能性があり、不足分を添加、または換水によって補う必要が出てきます。
また、当然ではありますが、プロテインスキマーという新たな装置を設置する分、②の装置そのものを維持する費用(エアストーンの買い直し)や、定期的な掃除の手間というコストが発生します。
③プロティンスキマーは泡の力で有機物を回収させる性質上、淡水は海水に比べて粘性が少く泡立ちにくいため、泡が直ぐに割れてしまい効果を発揮させることが出来ません。
プロテインスキマー不使用による影響と効果
モナコ式をベースとした無換水水槽より、プロテインスキマーが無いことによる影響と効果について得られた知見をまとめていきます。
不使用による影響
モナコ式の場合、微小な生物によって有機物がアンモニアまで分解されれば、好気的環境で活性する硝化細菌によって硝酸まで直ちに分解、その後は、ライブロック内部や底砂内部の嫌気的環境下で活性する脱窒細菌による硝酸呼吸によって窒素ガスへと無毒化されていきます。
モナコ式による海水飼育開始後、水質管理において問題となるアンモニア、亜硝酸、硝酸の蓄積は、直ちに手持ちの簡易試薬では検出されないレベルとなり、水質検査場はなんの問題もないレベルを維持しました。
一方、アンモニアに分解されるまでの有機物は、浮遊性は水面へ、沈降性は底面へと蓄積するため、水面には油膜、ライブロックや底砂へはフロックとして蓄積しました。
視認出来るレベルでの有機物蓄積の実情は、プロテインスキマーの導入欲求を駆り立てるものでした。
しかしながら、プロテインスキマーをあえて導入しなければ、水槽内はどうなっていくのか?これを継続観察しました。
不使用による効果
プロテインスキマー不使用により、視認出来るレベルで水面や底面へ有機物が蓄積していくさまは煩わしいものでした。
水面に浮かぶ有機物や増殖する植物プランクトンについては、応急的にキッチンペーパーなどで吸着回収を行うこともありました。底面については、ベントス食性のヤドカリや貝類によって捕食してもらいました。
結果、底面の有機物蓄積については、ヤドカリや貝類によって解決します。また、意図せず増殖してきたゴカイ類も有機物消費に寄与するようになりました。一方、水面については、いつの間にか有機物の蓄積が自然に見られなくなり、植物プランクトンと共に、視認できないほど減少しました。
<有機物処理の所要期間> 有機物が増えるのは、主に新しい生体受け入れ時、給餌量を増やした時、生体の斃死発生時、海藻崩壊時などでした。その際、底部や水面にフロック状の有機物が蓄積しますが、それぞれの処理スピードには違いがありました。 ●底部の有機物 育成間もないころは、1ヶ月程度を要して目立たなくなりましたが、育成開始1年経過以降は、1週間もあれば概ね処理されるようになりました。 ●水面の有機物 育成間もないころは、消滅するのに1ヶ月~3ヵ月を要した。育成開始から1年経過以降は、1~2週間以内、ここ最近の育成1年半経過以降は、2、3日で消滅するようになりました。 ※なお、有機物処理の所要期間は、育成密度、育成品種に影響を受けると考えられるため、絶対的な数字ではなく、現状の育成結果から言える目安的期間です。
予想でしかありませんが、水槽内の生態系が熟成へと向かう家庭で、有機物を直ちに分解する機構が自然に整ったのだと思われます。また、目に見える有機物の消費が促されたと云ってアンモニアや硝酸が検出されることはなく、継続して検出限界値以下に抑えられています。
一方で、海藻、サンゴ類は増殖しており、水槽内の生物量も増え、給餌量は、開始時の2倍以上に増えてもいます。
このことから、給餌による水質への負荷に対して、これを処理、利用できる水槽内のトータル的な生態系の均衡能力が向上し、維持、安定するようになったと考えられます。
プロテインスキマーの必要性検討
生態系が利用できれば必須でない
例えばサンゴ類や海藻は、粘膜物質(糖タンパク)を分泌しますが、これらは、水面の油膜の原因になります。一方、これらの粘膜物質は、脱窒細菌などの微生物が、その代謝において利用できます。
この場合、粘膜物質の回収するための装置としてプロテインスキマーの必要性はなくなります。
つまり、生物の相互作用としての生態系の仕組みが利用できれば、プロテインスキマーの設置は必須ではなくなることが分かりました。
無換水水槽、特に現在構築しているモナコ式水槽は、生態系の相互作業を利用するものであり、プロテインスキマーはなくても有機物処理が出来ることが実証できました。
時間的な余裕を担保する
生態系の熟成を見ず、育成開始間もない期間の状況を見るとプロテインスキマーの必要性を実感します。しかし、導入を堪え、生態系の熟成を待てば、プロテインスキマーの必要ない水処理が自然に構築されることが分かりました。
しかしながら、そのためには、育成密度を抑えなければならいでしょう。あれもこれもと、好きな生き物を入れ、給餌量を増やせば、未熟な浄化能力のキャパを超えて崩壊に向かうことになります。
育成密度に対応した熟成までの期間や、限界飼育密度については、実績値はなく、実験が必要なところです。しかしながら、現状としては、魚類から甲殻類、貝類、サンゴ類、海藻類と多種多様な生物が一つの水槽内で育成しており、プロテインスキマーなしに、十分見ごたえのある育成密度を生存させることが出来ていると感じています。
育成スタイルに対応
現状のMauerの実績から言えることは、生態系を利用できるモナコ式をベースとした無換水水槽において、育成密度を適正に管理出来れば、プロテインスキマーは不要であるということです。
つまり、通常の好気的生物濾過システムのみの育成、単種飼いの育成、高密度育成では、有機物を利用できる生物が不在または増殖困難であるため、結果的にプロテインスキマーの必要性は高いということです。
おわりに
この記事を書いた2022年4月11日の時点で、改良型モナコ式水槽は無換水のまま、1年8ヵ月が経過しました。
pH及び簡易試薬で測定可能な水質のパラメータは継続的に安定しており、未検出又は適正値が保たれています。
育成生物の個体数や給餌量を増やしたり、水槽内での個体の死などがあれば、水面に割れにくい気泡が残ることや、底部へのフロックの蓄積が確認できたりしますが、これらは数日で目立たたなくなります。
以前のような水面への油膜や植物プランクトンの大量発生などは見られなくなりました。
無換水のまま生態系が熟成する中で、生物同士の相互作用が強固になり、有機物などの負荷量の変動に対しての均衡能力も高まっているように感じます。
生態系の総合的な育成密度(バイオマス)の限界点など、実験的に調べ科学的知見を深めたいと思うところです。
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